【考察】巧みな比喩とは何か? 分析してみた。
ヒカリ「小説ってなんなんでしょうね」
ユウ「急にどうしたの?」
ヒカリ「いえ、最近ちょっと考えてることがあって」
ユウ「考えてること」
ヒカリ「はい。実は、小説を書きはじめたのですが」
ユウ「いいじゃない。小説。何かを創ることは悪いことじゃないわ。完成したらみせて」
ヒカリ「はい、そのときはぜひお願いします」
ヒカリ「でもちょっと今絶賛迷走中でして」
ユウ「なにに絶賛されているかは知らないけど、私にできることなら協力するわ」
ヒカリ「ありがとうございます。さすがユウ先輩。お人好しです」
ユウ「お人好しは褒め言葉じゃないわよ。まあ、あなたの場合、悪気はないんでしょうけど」
ヒカリ「あ、私、また失礼なことを」
ユウ「いいのよ。事実、私も少しお人好しなところがあるのは自覚してるから」
ヒカリ「そうですよね」
ユウ「......」
ユウ「それで? 何を迷っているの?」
ヒカリ「何を書けばいいのかわからないんです」
ユウ「え?」
ヒカリ「え?」
ユウ「ちょっと......確認をさせて。今小説を書いているのよね?」
ヒカリ「はい」
ユウ「どういうのなの? ジャンルとかテーマとか」
ヒカリ「青春ものです。恋愛要素強めの」
ユウ「じゃあ、それについて書けばいいのでは?」
ヒカリ「何を書けばいいのかわからないんです」
ユウ「見事にふりだしに戻ったわね。これが無限ループの始点というやつかしら」
ヒカリ「何を書けばいいのかわからないんです」
ユウ「やめて。リピートやめて」
ヒカリ「設定とか画とかを考えるのはわけないんですが、いざ書いてみるとなにかが違うような気がするんです。小説っぽくないというか」
ユウ「なるほど」
ヒカリ「それに書いてるうちはいいんですけどあとで見返してみると余計なものがたくさんあって全部消してしまったり」
ヒカリ「それでいつも小説ばかり読んでるユウさんにお話を聞いてみようと思ったんです」
ユウ「絶妙に引っかかる言い方をしてくるわね」
ユウ「まあ、なんとなく問題はわかったわ。つまり、文における小説っぽさとはなんなのか、ということね」
ヒカリ「そうです! その通り!」
ユウ「落ちついて、ヒカリ。いまやっとスタート地点に立っただけよ」
ユウ「そもそもこれはそんなに簡単に答えが出せるような問題じゃないと思うんだけど」
ヒカリ「大丈夫です。ユウさんなら必ずや答えに行き着くことができるはず」
ユウ「いや、あなたも考えるのよ? 一番人に任せちゃいけないところだから、そこ」
比喩という表現
ヒカリ「やっぱり比喩ですかね。比喩」
ユウ「確かに小説っぽくはあるわね」
ヒカリ「『彼女の姿はまるで犬のようだった』こんな感じですかね」
ユウ「漠然としててちょっとわかりづらいわね。もうちょっと具体的にしたほうがいいかも。どういう犬なのか、とか犬のどういうときなのか、とか」
ヒカリ「『彼女の姿はまるで這って主人の靴を舐める薄汚れた犬のようだった』こうですか?」
ユウ「どういう場面なの、それは。青春でも恋愛でもない気がするんだけど」
ヒカリ「主人公の落とした消しゴムをヒロインが拾う、という思わずときめく初対面の場面です」
ユウ「ときめかないわ。まったく。いやよ、そんなの」
ヒカリ「プリントの方がいいですかね?」
ユウ「そこじゃないのよ。物を拾ってもらって『こいつ薄汚れた犬みてぇだな』は人として違うのよ。それが知らない異性ならなおさらよ」
ヒカリ「そうですか? 私はそういう男の人、すごく惹かれるんですが」
ユウ「......そうね。この話は一旦保留にしましょう」
巧みな比喩とは?
ユウ「それで比喩だけど、おそらく例えるものから角度が違えば違うほどいいと思うの」
ヒカリ「角度、ですか」
ユウ「『私に言わせれば、砂糖とミルクの入っていないコーヒーなんて片方しかない靴下と同じようなものだ』」
ヒカリ「おぉ、小説っぽいです」
ユウ「これは私のブラックコーヒーに対する『捨てたほうがまし』という想いを別の角度から捉えてみたの。これならブラックコーヒー派の人にもそれなりに伝わると思うわ」
ヒカリ「共通しているものを探す、ということですね」
ユウ「そうよ。そしてその角度が離れていれば離れているほど、なぞかけのように楽しんで読むことができるの」
ヒカリ「なるほど。少しわかった気がします」
ヒカリ「つまり、私の場合、主人公のヒロインに対する『支配欲』と『後ろめたさ』を何か違ったもので表現すればいいんですね」
ユウ「ちょっと気になるから一回それ書いてきて」